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神ではない

「そうそう、明日の10時に転属してくるのが二人いるからな」

珍しく夕飯時に第一部隊と第五部隊が揃い、騒がしく食事をしていたころに、タクヤがふと思い出したように言った。

「随分急だね?」
「うん、まぁ今まで忘れてたからな」
「またか………」

普段は真面目にやっているタクヤなのだが、時折任務や約束事とかをすっぽかすもとい忘れることがある。その度にツバキに叱られリンドウにも厳重注意され始末書も書かされるというのをしている。

「うん、でも事前に言えたし」

そういう問題ではないが、これも彼の愛すべきところである。





「ティルナード・マクシミリ。神機はロング」
「エレドーナ・モニカ・エイゼルシュタインです。神機はスナイパーです」
「ティルはアメリカ支部から。エレンはロシア支部からだ。二人は第一部隊に所属してもらう」
「それじゃあ引き継ぎですね」
「うむ」
「ほんじゃー任務がある奴は行ってくれ」

ツバキとタクヤがエレベーターに消えていくというお馴染みの光景を見てから、アリサは二人に向かい合った。

「はじめまして。アリサ・イリーニチナ・アミエーラです」

そう言って簡単にここでの決まりややり方を口頭で伝えていく。

「おっアリサじゃん」

そこへ朝一で任務に出ていた第五部隊………ソーマ・トオル・コウタに出くわした。

「ちょうどいいですね。二人とも、こちらは第五部隊の方たちです。よく手伝ってくれるので覚えておいてください」
「例の転属の人かー。よろしくなっ」





新人ではないので、早速任務に出ることになったのだが、あの四ヶ条を伝えるためにタクヤ・トオルとともに出撃することになった。

「まず俺とティルが前線、トオルとエレンが後衛な。んでトオルはオラクルが切れたら俺と交代」
「おっけ」

神機を軽く持ち上げてコンバートする。慣れたアサルトが顔を出した。

「今回はウチのルールと新型との戦い方に慣れてもらうからな。ま、そんな気負らずにやってくれ」
「はい」
「了解です」
「そろそろ時間よ」
「おっそうか。じゃあサラッといくぞ。いいかーまず『死ぬな』『逃げろ』そして『隠れろ』。最後は『隙を見てぶっ殺せ』だ。行くぞ!」

あっけにとられる二人をよそにさっさとタクヤは降りていってしまった。

「これがルールよ。簡単そうで、最も難しいルール。でもま、その内慣れるわよ。あぁちなみに第五部隊も同じルールだからね」

高くジャンプして、索敵中だったザイゴートに目掛けてロングブレードを降り下ろした。





「どうしてゴッドイーターになったんですか」
「………急にどうしたの?」
「家族がいる者は、ゴッドイーターになれば少しだけでも生活は楽になります」
「でも私にはその対象がいない」
「フェンリルの配給は受けていなかったんでしょう。なんでですか」

まるで詰問されているようだった。なにせ抑揚のない話し方で、ただ音が出ているだけの機械的な感じなのだ。

「うぅん。最初は寝床とご飯と答えのために」
「答え」
「死んだ家族は生きてほしいって言ったんだけど、置いていかれた私としてはよくわからなかった………死んでもよかった」

今でもふとした瞬間に首を出す、この疑問。家族を置いて生きていていいのか、家族に置いていかれたから死んだ方がいいのか。生きてと言われたけど、生きていた理由がその家族と生きたいと思っていたからであって、理由がなくなったときただその遺言だけで生きていくには、この世界は辛すぎる。

「今は仲間がいるから」
「そうですか」

ニッコリと自然にエレンが笑った。
しかし次の瞬間、

「つまり貴女を恐れることはないというわけですわね!」






オーホホホッ

まさに漫画でしか見たことがない高笑いを現実にやってのける人間がいたとは。と、先に歩いていたタクヤは思った。それは隣のティルま同じだったようで、こちらも唖然としている。

「うーん、確かに怖がられたくないなぁ」
「当然ですわね!同士に怖がられているようでは相手にも受け入れてもらえませんもの」
「次は怖がられないように気を付けないと」



「………噛み合ってるようで噛み合ってないですよね」
「ははは………」



遠くでヴァジュラの声を聞いた。





『じゃあ早速任務に行くか!』

タクヤはすぐに戻ってきた。新人ではないから引き継ぎも楽なのである。

『新型と戦線やったことないっつーことだから、まずは慣れるためにトオルを連れて行きたいんだが』
『…………構わん』
『いいですよー』

その時にエレンは見たのだ。連れて行きたいと言ったタクヤに、嫉妬している瞳を向けるソーマを。



「ズルいですわ。あんなにカッコイイ方に思われて、気づかないなんて」
「何か言った?」
「なんでもありませんわ!それよりオラクル切れなのではありませんの?さっさとお代わりなさいな!」
「え?うん、まぁ。じゃあ――――タクヤ、交代!」

タクヤはバックステップを踏みながらスナイパーに切り替え、トオルは片手でロングブレードを薙ぎ払いヴァジュラを怯ませた。

「本当に………ズルいですわ」





他の支部から極東に配属される、というのは大出世である。いくら極東生まれといえども模擬演習でいい点を出さないと、いざ出撃となっても他所に飛ばされるのだから。だから極東は花形であり、第一部隊はさらに格上となるのだ。もちろんそこから派生した第五も。だからその二つどちらに所属しているメンバーはすべからくカリスマ性があって羨望されているのだ。ソーマも例に漏れず、他の支部では『青い弾丸』なんて揶揄されるほど。勢いが衰えることを知らず、強い標的に当たっても貫通する。つまり、周りが死んでしまうような戦局でも生きて帰ってこれるほど強いというわけである。

「写真を見たわけでもない、でもあたくしは彼が好きなんですの」
「へぇ」
「でも彼には好きな人がいますの」
「へぇ」
「どうにかなさいな」
「協力しろって?」
「あら、一目惚れしたお方が何をおっしゃいますの」

エレンの断定的な言葉に、ティルはニヤリと笑った。

「新進気鋭の『赤天使(レッドエンジェル)』。噂通り身が軽いし、可憐だ」

一撃一撃を跳躍や回避を駆使して正確に部位破壊へ持ち込んでいく。あの華奢な身体からは想像も出来ないぐらい鋭く、強烈であった。

「ソーマさんは、あたくしが」
「トオルを俺がってか………えげつねぇな」
「欲しいものは全て手に入れる主義ですの――――立っているものは親でも使え、ですわ」





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