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もう一人のワタシに
「………あれー?」
ようやく半分が過ぎた頃。本部との膠着(こうちゃく)は続くもの、それはそれとして過ごすことに慣れてきた。
そんな折、いつも朝起きてエントランスに向かうと必ずソーマとコウタがいて、共に朝食にいってそこで一日の予定を決めるというのがスタンスだったのだが………
「いないなぁ」
受付に聞いてみると緊急出撃にかり出されたそうだ。
(…………ヤバいか?)
嫌な予感がして、二人が戻ってくるまで部屋に引っ込んでいようと踵を返した。まではよかったのだが。
『ミス・シノサキ!』
「………げっ」
本部の第一部隊隊長は、ゴスロリの女性(年齢不詳)だ。動きにくそうに見えてしかしよくよく見ると機動性はあったりする。そしてこの彼女、名前はヴィオラ・ゴーランド。つまり本部長の娘である。
『お暇ならわたくしたちの任務に同行しなさい。ヴァジュラ一体よ。貴女なら軽いものでしょう?むしろ一人でも平気でしょうけれど』
一言も二言も三言も多いのは何も怖いことがないからであろうか。
『………行きます』
とりあえずここは穏便にして、さっさと倒して帰ろうと決意した。
しかしここでトオルは気づかなかった。
なぜ、第一部隊長が緊急出撃にかり出されなかったのか。
そしてトオルも――――
まるで旧時代の、さらに昔である十九世紀末のような臭いがするスモッグが辺り一面に立ちこめていた。しかしその臭いは石炭や石油が燃える臭いではなく、建物が腐敗する、なんとも言えないものである。
(鼻が馬鹿になりそー)
だが死体が腐敗した臭いよりかはマシか、と切り替える。少しだけよぎった過去を無視して辺りを警戒する。
―――…………ォオン
『2時の方向1km先に目標確認。近づいている模様。指示を』
ヴィオラは一瞬鋭い視線をトオルに向けた。それを肌で感じ取ってはいたが、いつものことと気にしない。
『………近接は前衛にて陽動しつつ攻撃。遠距離は後衛にて射撃。いつも通りよ。貴女はお好きにどうぞ』
『GO!』
(………誤射が多いな)
むしろわざと、と言っても間違っていない気さえした。おかげで何度電撃をくらいそうになったり猫パンチをくらいそうになったか。特にヴィオラの銃撃によって。
(あと少しだし、私も銃形態に切り換えて破裂弾使おう)
オラクル消費は激しいが、追尾機能もついた特製弾だ。よほど弾道の前に躍りでない限り危険もないだろう。
(ったく、ワザとにしろ本当にしろ、よくあんなんでリーダーになれたんだ)
死が近いこの戦場で仲間の裏切りは命取りである。
(死んでほしいと思われる謂われはないよ)
誰か一人でも知り合いなり友人になれたら、と思っていたのに畏怖の視線ばかり。寂しくて悲しい。
この世は弱肉強食。やらなきゃ、やられる。だからやられる前に殺る。それが現実なのだから。
ドン、ドン
(私、何かしたっけ?)
最期の一撃はヴィオラが射った弾。二発目はヴァジュラを通り抜けトオルへ。よろめいて倒れかかるヴァジュラを避けられない。しかし足元がいきなり崩れ落ちた。討伐場所は切り立つ崖が沢山ある街中。といっても研究所らしき建物も多いが。とにかくトオルが立っていた所も崖近く。ヴァジュラが暴れた為と、そういえば
(ヴィオラの流れ弾も足元に当たってたっけ)
なるほど、その命中率と正確さでリーダーになったのかと、落ちながらぼんやり思った。
「トオルが………MIA!?」
「…………」
ソーマとコウタが帰投してすぐ、ゴーランドに呼ばれた。そこで通達されたのは任務中に崖から落ちたというものだ。ヴァジュラが暴れたため、足元が崩れてしまったのだという。報告したのはヴィオラである。
『捜索班が今出動している。どんな結果になろうとも発見次第、必ず報告はする。それまでは通常任務を続けてもらう』
「………ソーマ」
『了解』「――――行くぞ」
颯爽と身を翻し部屋を辞する。そうしなければ、目の前にいる人物を殴ってしまいそうだった。
「どこ行くんだ?」
「アイツが行った任務地へ。本部より先に見つける」
「やっぱり、謀られた?」
「十中八九そうに決まってる………死んでも死体さえあれば、ってところか?」
「崖から落ちたんだろ………いつ落ちたんだかわかんねーけど、捜索班にもう見つかっても」
「アイツが易々とヘマをするわけがねぇ。怪我も最小限にしてるだろ」
「どうやってだよ」
「ヴァジュラの死体も一緒に落ちたんだろ。大型は霧散するのが数分から数十分かかるからな。それの上にでも乗りゃ衝撃は少ない」
「はーなるほど………」
「捜索班に回収されたら真っ直ぐ病室行きだろ。だから移動しているはずだ」
「だからMIA」
「怪我が癒えるまでどこかに隠れて、自力で戻ってくるつもりだろう。ともあれ無事は確認しとかねぇと」
「じゃあ任務受注してくる!」
受付まで走って片言の英語を使って一生懸命任務内容を確認するコウタ。
考えていない事態ではなかった。だからと言って回避出来る事態でもなかった。緊急要請に誰を行かせるなんて、エントランスにいて尚且つ適任の人間が行くべきで。しかしヴィオラは、あの時エントランスにいたはずなのだ。だがいざ出動する時点になって彼女はいなくなっていた。今さら出動を取り消しに出来るはずもなく、一抹の不安を抱えて向かったのだが、
(案の定だったな)
とにもかくにも向かわなければ。
その少し前。
「はぁ」
トオルは落ちてきた上を見上げた。随分高いところから落ちたものだ。それでも怪我が軽い打ち身と切り傷のみなのは、ヴァジュラのクッションがあったからだろう。その代わりヴァジュラの死体は散々たるものだった。
「どうしよっかな」
この程度の怪我ならすぐに治るだろうが、落ちたんだからなんだとかかんとか言い訳をつけて検査をされたらたまったもんじゃない。全くの無傷で戻ろうと、とりあえず移動することにした。
落ちた場所はどうやら研究所の地下らしかった。かなり広い。
(そういえばこの辺りは旧時代の研究所が乱立してたな)
その中に、見覚えがある建物もあった。
(あの実験は地下で)
(暗くて、深いところ、に)
(このぐらいの深さで)
「――――ハルカお嬢さん?」
「戻ってくると思っていましたよ」
ハルカと勘違いしたままの初老の男性はしっかりとした足どりでトオルを先導した。
「貴女と三号が出ていってから、ご両親はそれはそれは半狂乱でしたよ――――三号はどうしました?死にましたか?」
三号と呼ばれていた日々は、記憶に根付き忘れられない。いや、忘れることが出来ようか。
「ハルカは死んだ。三号もいない………私はトオルだ」
老人は二度、三度瞬きをしてため息をついた。
「そうか、お嬢さんは亡くなったか………ではトオル、君に会ってほしい子がいる」
「ホムンクルスだ」
いつの間にか暗い部屋にいて、老人が部屋の電気を点けた。
ハルカと同じ身長に外見、体型。まるで本当にハルカが培養液の中でホルマリン漬けになっているようだった。
「そもそもホムンクルスというのを知っているかね」
「………言葉だけ」
「ふむ、よかろう。さてホムンクルスとは【フラスコの中の小人】という意味でね、フラスコから出ると死んでしまう空想上の完全な人間だとされている。実際旧時代の遥か昔に成功したとか………まぁ眉唾物だろうがね。ともかくこの子はこの中から出ると生きていけないのだ」
「名前、は」
「博士達はX(エックス)――――不確定要素と呼んでいた。何せ、君らがいなくなってしまったから急遽造り上げたものでね」
「!!!」
「………まったく愚かしいことだ。人が人を作るなど。だがどれも卵子と精子が元だからね。違うのだろうが」
「同じよ………人の命を弄んでる!」
ハルカは置き手紙を残したはずだ。
【わたしたちはオモチャじゃない】
「…………遠矢」
「私はね、ハルカお嬢さんに知ってほしかったのだよ。君のご両親は愚かしいことをした、と」
「なんであなたは止めなかったんですか。同罪じゃないですか」
「そう、私も人のことは言えない。だが、伝えなければと思ってね………彼女も私ももう長くない」
長くない………それは死を意味する。
「それに上の方にフェンリルの探索班が何度も出入りしている」
「クローン、技術を………?」
「ここで行われたことが漏れたことはない。それは絶対だ。だから、やはり博士のクローン技術が何かに使えないかと考えてのことだろう」
「我々は二度とこんなことをしてはならない」
――――っ
「!!」
「?………なんか空気が震えて」
「コウタ、来いっ!」
ソーマがコウタの腕を掴んで走り出した途端、今まで立っていた所に大きなヒビが入り、崩れ落ちた。
ドオン!
ドオン!
ドンドン!
「なっばっ爆発?!」
「いいから走れっ!」
ちょうど道端が狭い所を歩いていたため、端から崩れていく。
「こっち!」
脇道にて叫んだのは、髪が長く白いシンプルなワンピースを着た女性。
「トオル?!」
「誰だテメェ!」
コウタの叫びよりソーマの怒声が響いた。
「いいから早く!トオルもこっちにいるの!」
トオルにそっくりな女性は身を翻して走っていく。何がなんだかわからないが、とりあえず着いていくことにした。
街の外れまで走っていくと人影が二つ見えた。一つは白衣を着た老人。もう一つは、
「トオルっ!!」
仰向けで寝かされていたトオルをソーマが抱き起こす。するとトオルが薄く目を開けた。
「………トオ、ヤ?」
「トオル、違う」
自分を見ながら言うものだから、ソーマは思わず否定した。がすぐに後悔する。意識があやふやな時に言った言葉を否定して、混乱しないかと思ったのだ。しかしトオルは少し不思議そうな顔をして、完全に力が抜け、意識をなくした。
「やはりショックが大きかったかかねぇ」
「誰だテメェら」
トオルを左手で俵抱きをして神機を構える。コウタもいつでも射てるように構えた。
「生き残りがディーグだけではなかったということさ」
「………じゃあお前も」
老人は小さく微笑んだだけで女性の方へ向いてしまった。
「X、外はどうだった」
「特に何も。そうね、言うなれば生きにくい世界ね」
「遺恨なく消えられる」
近くの建物が崩壊した。その風でXの身体は霧散した。
「すまないね…………」
「人が神の領域を侵した時の罰は、はてなんだと思うかね」
Xが立っていた所には、彼女が着ていたワンピースが微風に吹かれ裾がひらひらと揺られていた。
「不治の病で死んで逝くんだ」
「じーさん、病気?」
「安心したまえ。移ることはないよ。筋肉が骨に変わっていくだけさ」
老人が立ち上がる。確かに身体が固いような気がする。肩も変な風に上がっていたり。
「ディーグはしたっぱだから詳しい内容は知らんが、私は博士の右腕だ。この研究内容を知られる訳にはいかん。君たちも私も、お互い知らぬ存在の方がいい」
えっちらおっちら老人は立ち上がると白衣をワンピースの上に脱ぎ捨てた。そしてポケットからジッポを取りだし、火を点けたまま服の上に投げた。
「トオルは一人だ。母親との繋がりを知らず、父親の慈しみを知らない。容姿をねじ曲げられて、人生を決められていた。全く違う人間になることを望まれた精神は、そう簡単に癒えることはないだろう」
日はいつしか西に傾き、服を燃やす炎と同じ色に辺りが染まっていく。
そして老人は歩き出す。
「フェンリルは、あんたのことを探してんのか?」
「いや。だが、私だけ特別扱いをしたら怪しむだろうね。場所が場所だし、この大爆発の後でだと。それになにより彼女の精神に良くない」
いつまでも俵抱きにしていると頭に血が登ってしまうのでソーマに寄りかからせている。
「さぁもう行きなさい………残っていた研究内容も消えた。そのうちここの地下もマグマによって満たされるだろう」
「大丈夫。トオルから研究内容を知るのは不可能だ」
老人は今度こそ立ち去ってしまった。
ようやく半分が過ぎた頃。本部との膠着(こうちゃく)は続くもの、それはそれとして過ごすことに慣れてきた。
そんな折、いつも朝起きてエントランスに向かうと必ずソーマとコウタがいて、共に朝食にいってそこで一日の予定を決めるというのがスタンスだったのだが………
「いないなぁ」
受付に聞いてみると緊急出撃にかり出されたそうだ。
(…………ヤバいか?)
嫌な予感がして、二人が戻ってくるまで部屋に引っ込んでいようと踵を返した。まではよかったのだが。
『ミス・シノサキ!』
「………げっ」
本部の第一部隊隊長は、ゴスロリの女性(年齢不詳)だ。動きにくそうに見えてしかしよくよく見ると機動性はあったりする。そしてこの彼女、名前はヴィオラ・ゴーランド。つまり本部長の娘である。
『お暇ならわたくしたちの任務に同行しなさい。ヴァジュラ一体よ。貴女なら軽いものでしょう?むしろ一人でも平気でしょうけれど』
一言も二言も三言も多いのは何も怖いことがないからであろうか。
『………行きます』
とりあえずここは穏便にして、さっさと倒して帰ろうと決意した。
しかしここでトオルは気づかなかった。
なぜ、第一部隊長が緊急出撃にかり出されなかったのか。
そしてトオルも――――
まるで旧時代の、さらに昔である十九世紀末のような臭いがするスモッグが辺り一面に立ちこめていた。しかしその臭いは石炭や石油が燃える臭いではなく、建物が腐敗する、なんとも言えないものである。
(鼻が馬鹿になりそー)
だが死体が腐敗した臭いよりかはマシか、と切り替える。少しだけよぎった過去を無視して辺りを警戒する。
―――…………ォオン
『2時の方向1km先に目標確認。近づいている模様。指示を』
ヴィオラは一瞬鋭い視線をトオルに向けた。それを肌で感じ取ってはいたが、いつものことと気にしない。
『………近接は前衛にて陽動しつつ攻撃。遠距離は後衛にて射撃。いつも通りよ。貴女はお好きにどうぞ』
『GO!』
(………誤射が多いな)
むしろわざと、と言っても間違っていない気さえした。おかげで何度電撃をくらいそうになったり猫パンチをくらいそうになったか。特にヴィオラの銃撃によって。
(あと少しだし、私も銃形態に切り換えて破裂弾使おう)
オラクル消費は激しいが、追尾機能もついた特製弾だ。よほど弾道の前に躍りでない限り危険もないだろう。
(ったく、ワザとにしろ本当にしろ、よくあんなんでリーダーになれたんだ)
死が近いこの戦場で仲間の裏切りは命取りである。
(死んでほしいと思われる謂われはないよ)
誰か一人でも知り合いなり友人になれたら、と思っていたのに畏怖の視線ばかり。寂しくて悲しい。
この世は弱肉強食。やらなきゃ、やられる。だからやられる前に殺る。それが現実なのだから。
ドン、ドン
(私、何かしたっけ?)
最期の一撃はヴィオラが射った弾。二発目はヴァジュラを通り抜けトオルへ。よろめいて倒れかかるヴァジュラを避けられない。しかし足元がいきなり崩れ落ちた。討伐場所は切り立つ崖が沢山ある街中。といっても研究所らしき建物も多いが。とにかくトオルが立っていた所も崖近く。ヴァジュラが暴れた為と、そういえば
(ヴィオラの流れ弾も足元に当たってたっけ)
なるほど、その命中率と正確さでリーダーになったのかと、落ちながらぼんやり思った。
「トオルが………MIA!?」
「…………」
ソーマとコウタが帰投してすぐ、ゴーランドに呼ばれた。そこで通達されたのは任務中に崖から落ちたというものだ。ヴァジュラが暴れたため、足元が崩れてしまったのだという。報告したのはヴィオラである。
『捜索班が今出動している。どんな結果になろうとも発見次第、必ず報告はする。それまでは通常任務を続けてもらう』
「………ソーマ」
『了解』「――――行くぞ」
颯爽と身を翻し部屋を辞する。そうしなければ、目の前にいる人物を殴ってしまいそうだった。
「どこ行くんだ?」
「アイツが行った任務地へ。本部より先に見つける」
「やっぱり、謀られた?」
「十中八九そうに決まってる………死んでも死体さえあれば、ってところか?」
「崖から落ちたんだろ………いつ落ちたんだかわかんねーけど、捜索班にもう見つかっても」
「アイツが易々とヘマをするわけがねぇ。怪我も最小限にしてるだろ」
「どうやってだよ」
「ヴァジュラの死体も一緒に落ちたんだろ。大型は霧散するのが数分から数十分かかるからな。それの上にでも乗りゃ衝撃は少ない」
「はーなるほど………」
「捜索班に回収されたら真っ直ぐ病室行きだろ。だから移動しているはずだ」
「だからMIA」
「怪我が癒えるまでどこかに隠れて、自力で戻ってくるつもりだろう。ともあれ無事は確認しとかねぇと」
「じゃあ任務受注してくる!」
受付まで走って片言の英語を使って一生懸命任務内容を確認するコウタ。
考えていない事態ではなかった。だからと言って回避出来る事態でもなかった。緊急要請に誰を行かせるなんて、エントランスにいて尚且つ適任の人間が行くべきで。しかしヴィオラは、あの時エントランスにいたはずなのだ。だがいざ出動する時点になって彼女はいなくなっていた。今さら出動を取り消しに出来るはずもなく、一抹の不安を抱えて向かったのだが、
(案の定だったな)
とにもかくにも向かわなければ。
その少し前。
「はぁ」
トオルは落ちてきた上を見上げた。随分高いところから落ちたものだ。それでも怪我が軽い打ち身と切り傷のみなのは、ヴァジュラのクッションがあったからだろう。その代わりヴァジュラの死体は散々たるものだった。
「どうしよっかな」
この程度の怪我ならすぐに治るだろうが、落ちたんだからなんだとかかんとか言い訳をつけて検査をされたらたまったもんじゃない。全くの無傷で戻ろうと、とりあえず移動することにした。
落ちた場所はどうやら研究所の地下らしかった。かなり広い。
(そういえばこの辺りは旧時代の研究所が乱立してたな)
その中に、見覚えがある建物もあった。
(あの実験は地下で)
(暗くて、深いところ、に)
(このぐらいの深さで)
「――――ハルカお嬢さん?」
「戻ってくると思っていましたよ」
ハルカと勘違いしたままの初老の男性はしっかりとした足どりでトオルを先導した。
「貴女と三号が出ていってから、ご両親はそれはそれは半狂乱でしたよ――――三号はどうしました?死にましたか?」
三号と呼ばれていた日々は、記憶に根付き忘れられない。いや、忘れることが出来ようか。
「ハルカは死んだ。三号もいない………私はトオルだ」
老人は二度、三度瞬きをしてため息をついた。
「そうか、お嬢さんは亡くなったか………ではトオル、君に会ってほしい子がいる」
「ホムンクルスだ」
いつの間にか暗い部屋にいて、老人が部屋の電気を点けた。
ハルカと同じ身長に外見、体型。まるで本当にハルカが培養液の中でホルマリン漬けになっているようだった。
「そもそもホムンクルスというのを知っているかね」
「………言葉だけ」
「ふむ、よかろう。さてホムンクルスとは【フラスコの中の小人】という意味でね、フラスコから出ると死んでしまう空想上の完全な人間だとされている。実際旧時代の遥か昔に成功したとか………まぁ眉唾物だろうがね。ともかくこの子はこの中から出ると生きていけないのだ」
「名前、は」
「博士達はX(エックス)――――不確定要素と呼んでいた。何せ、君らがいなくなってしまったから急遽造り上げたものでね」
「!!!」
「………まったく愚かしいことだ。人が人を作るなど。だがどれも卵子と精子が元だからね。違うのだろうが」
「同じよ………人の命を弄んでる!」
ハルカは置き手紙を残したはずだ。
【わたしたちはオモチャじゃない】
「…………遠矢」
「私はね、ハルカお嬢さんに知ってほしかったのだよ。君のご両親は愚かしいことをした、と」
「なんであなたは止めなかったんですか。同罪じゃないですか」
「そう、私も人のことは言えない。だが、伝えなければと思ってね………彼女も私ももう長くない」
長くない………それは死を意味する。
「それに上の方にフェンリルの探索班が何度も出入りしている」
「クローン、技術を………?」
「ここで行われたことが漏れたことはない。それは絶対だ。だから、やはり博士のクローン技術が何かに使えないかと考えてのことだろう」
「我々は二度とこんなことをしてはならない」
――――っ
「!!」
「?………なんか空気が震えて」
「コウタ、来いっ!」
ソーマがコウタの腕を掴んで走り出した途端、今まで立っていた所に大きなヒビが入り、崩れ落ちた。
ドオン!
ドオン!
ドンドン!
「なっばっ爆発?!」
「いいから走れっ!」
ちょうど道端が狭い所を歩いていたため、端から崩れていく。
「こっち!」
脇道にて叫んだのは、髪が長く白いシンプルなワンピースを着た女性。
「トオル?!」
「誰だテメェ!」
コウタの叫びよりソーマの怒声が響いた。
「いいから早く!トオルもこっちにいるの!」
トオルにそっくりな女性は身を翻して走っていく。何がなんだかわからないが、とりあえず着いていくことにした。
街の外れまで走っていくと人影が二つ見えた。一つは白衣を着た老人。もう一つは、
「トオルっ!!」
仰向けで寝かされていたトオルをソーマが抱き起こす。するとトオルが薄く目を開けた。
「………トオ、ヤ?」
「トオル、違う」
自分を見ながら言うものだから、ソーマは思わず否定した。がすぐに後悔する。意識があやふやな時に言った言葉を否定して、混乱しないかと思ったのだ。しかしトオルは少し不思議そうな顔をして、完全に力が抜け、意識をなくした。
「やはりショックが大きかったかかねぇ」
「誰だテメェら」
トオルを左手で俵抱きをして神機を構える。コウタもいつでも射てるように構えた。
「生き残りがディーグだけではなかったということさ」
「………じゃあお前も」
老人は小さく微笑んだだけで女性の方へ向いてしまった。
「X、外はどうだった」
「特に何も。そうね、言うなれば生きにくい世界ね」
「遺恨なく消えられる」
近くの建物が崩壊した。その風でXの身体は霧散した。
「すまないね…………」
「人が神の領域を侵した時の罰は、はてなんだと思うかね」
Xが立っていた所には、彼女が着ていたワンピースが微風に吹かれ裾がひらひらと揺られていた。
「不治の病で死んで逝くんだ」
「じーさん、病気?」
「安心したまえ。移ることはないよ。筋肉が骨に変わっていくだけさ」
老人が立ち上がる。確かに身体が固いような気がする。肩も変な風に上がっていたり。
「ディーグはしたっぱだから詳しい内容は知らんが、私は博士の右腕だ。この研究内容を知られる訳にはいかん。君たちも私も、お互い知らぬ存在の方がいい」
えっちらおっちら老人は立ち上がると白衣をワンピースの上に脱ぎ捨てた。そしてポケットからジッポを取りだし、火を点けたまま服の上に投げた。
「トオルは一人だ。母親との繋がりを知らず、父親の慈しみを知らない。容姿をねじ曲げられて、人生を決められていた。全く違う人間になることを望まれた精神は、そう簡単に癒えることはないだろう」
日はいつしか西に傾き、服を燃やす炎と同じ色に辺りが染まっていく。
そして老人は歩き出す。
「フェンリルは、あんたのことを探してんのか?」
「いや。だが、私だけ特別扱いをしたら怪しむだろうね。場所が場所だし、この大爆発の後でだと。それになにより彼女の精神に良くない」
いつまでも俵抱きにしていると頭に血が登ってしまうのでソーマに寄りかからせている。
「さぁもう行きなさい………残っていた研究内容も消えた。そのうちここの地下もマグマによって満たされるだろう」
「大丈夫。トオルから研究内容を知るのは不可能だ」
老人は今度こそ立ち去ってしまった。
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